はじめの言葉   2009年5月号より

                 はじめの言葉

■アメリカのサブプライムローンにかかわる証券取引で損失が出た場合を担保する金融商品(保険商品?)をCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というのだそうだが、このCDSを大口で引き受けたAIGが経営破綻の脅威にさらされているのは衆知の通り。日本円で8000円前後していた株価が36円に大暴落したのも、そのせいである。今、日本市場で事業展開している関連子会社の身売り話も出ている。
■アメリカの金融破綻に端を発する今回の世界大恐慌である。日本政府は「百年に一度」を謳い文句に金融大出動の政策でこれを乗り切ろうとしている。国民はこのあとには大幅な消費税アップが控えているのではないかと、これまた心配のタネがつきないところだ。そんな中、世界的金融危機の大元となったアメリカの大手金融業者が、本年第1四半期の業績を大きな黒字で記録したから、またまた大騒ぎとなっている。
■素直に、アメリカの金融市場の回復だと喜んで良いのか、はたまた、更なるどん底への序章なのか。破綻間違いなしと思われたAIGの株価も170円前後までに上がってきた。とは言え、もともとの株価に比べようもないが奇異な気がする。サブプライムローンに派生する金融商品の取引は、所詮、本業に対する財テク行為である。AIGにしても、それを除いた本来の事業での企業実体から考えると、何ら従前と変わっていない。
■AIGと同業とされる保険業界全般にしても、こうした金融業界全体の地合いというか、一部大手企業の動向を反映してか、大きな株価変動を見せている。あえて強調しておくが、本来の事業実体からいうと、ほとんど変動していないにも拘わらず、株価だけが上下しているのである。「所詮株価なんてそんなものだよ」と言い放ってくれた知人がいるが、本当に金融商品、金融業界の動きを見極めるのは難しい。
■思えば、リスクマネジメントなるキャッチコピーがコンピュータ産業界で盛んに喧伝されたのは1980年代初頭のことだった。ちなみに、日本リスクマネジメント学会は、1978年に創立さている。80年代に問題対象とされていたものは、ざっくり言うと、コンピュータ取引に移行しつつある株取引(ディーリング)のリスク感知、リスク回避をコンピュータシミュレーションで実行できないかというものだったと記憶している。
■ここにきて、リスクマネジメント関連の団体、研究機関、業界団体などが雨後の竹の子のように出てきているようだが、まさにそれぞれが都合良い解釈と生い立ちを解説しながら、堂々の論陣を張っている。賢者は歴史に学び、愚者は体験に頼るという言い方がある。果たして、どういう立場を踏襲することになるのだろうか。ただ言えるのは、今回の金融危機にはどうにも太刀打ちできなかったということだ。
■リスクマネジメントなるものが喧伝されてから、相応の歴史が積み重ねられている。いつの時代もそうだが、己の知っている範囲、都合の良い範囲、理解できる範囲だけでものごとを考え、決め付け、判断し、そして思い込んでしまうことのリスクは大きい。商用コンピュータが登場して60年。先頭を切ってコンピュータ活用を推進してきたのは金融業界である。改めてコンピュータ活用の歴史的原点を見直してみたい。(藤見)

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