はじめの言葉   2009年2月号より

                  はじめの言葉

■アメリカに初の黒人大統領が就任した。「私には夢がある」と言ったマーティン・ルーサー・キング牧師が凶弾に倒れてから41年の歳月が流れている。キング牧師は「人は兄弟姉妹として共に生きていく術を学ばなければならない。さもなくば、私たちは愚か者として滅びるだろう」とも言っている。そのキング牧師を尊敬してやまないというオバマ大統領だが、彼の大統領就任そのものがキング牧師の「夢」ではない。キング牧師の夢に一歩近づいたに過ぎない。
■奇しくも、世界的規模での金融不況の波が押し寄せる中で、日本の労働市場では凄まじいばかりの雇用解雇が行われている。これまでの何年にも渡って低賃金労働をしてきた労働者を中心に解雇の波が押し寄せている。すでに低所得であったがために、解雇されるや即日、住むところを失い、食べることもできなくなった労働者が数多く出現してきている。いつしか、日本国内に大きな人種層が形成されてきてしまったようだ。
■何故年収200万円という低所得者層が日本に生まれたか。何故彼等は非正規社員だ、季節労働者だ、派遣社員だなどと言われ、一般の「正規社員」と区別されるようになっ
たのか。まるで江戸時代の幕藩体制下の上士、郷士のような身分制度が復活したかのようではないか。社会現象となった非正規社員の解雇は、上士に当たる正規社員の解雇とは異なり、労働争議に発展する空気もない。
■これだけの社会問題になっても、違法な労働者解雇ではないというのも現在のもうひとつの現実である。ただ、社会問題であるとの認識もあるようで、またぞろワークシェアリングの必要性の大合唱だ。実に安直である。そもそもが派遣社員、季節労働者の適用業種を増やしたこと自体がワークシェアリング制度の発想であり実践だった。ホンの数年前のことである。すでに忘れてしまったとでも言うのだろうか。
■結果、江戸時代の上士郷士制度の復活である。現代の郷士が年収200万円足らず非正規社員なら、上士に当たる正規社員にはパラサイトミドルと呼ばれながらも、年収1000万円以上を受け取っている社員もいる。日本人の平均年収5〜600万円と言われる構造の背景でもある。赤字に転落したトヨタにあっても、依然ベースアップ4000円を要求する労働組合が、上士正規社員だけの生き残りを支える。
■そもそもが年収200万円のワーキングプワー層が出現した背景には、年収300〜400万円の労働市場を海外に持ち出してしまったことがある。海外での生産工場展開であり、情報処理産業界におけるコーディング作業のオフショアである。なけなしの年収400万円をワークシェアリングした結果が、年収200万円以下のワーキングプア層の排出である。
■最早、安直なワークシェアリングの繰り返しではなく、パラサイトミドル層の年収、労働組合労働者の年収に着目したサラリーシェアリングを考える時期を迎えたと言える。合わせて、プログラムのコーディング市場も含めた年収400万円の労働市場を海外から取り戻すことも考えてみるべきだろう。安易なアウトソーシングではなく、自社の社員を中心に汗水を流す労働市場を取り戻し、再構築するべきだろう。(藤見)

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